このコーナーでは、歴代のフラメンコ歌手の中でも
フラメンコの発展に寄与したり、それぞれの時代を代表した
特に重要と思われるフラメンコ歌手をご紹介します。
トマ・パボン 1893年生まれ
トマ・パボンは、ニーニャ・デ・ロス・ペイネス(パストーラ・パボン)の弟で、
1893年にセビージャで生まれ、1952年にやはりセビージャで亡くなりました。
実は、パストーラのそばで、ずっと彼女にカンテを教え、
支え続けたのがこのトマ・パボンと言われています。
パストーラを導き、売り出すことに集中していたせいか、
本人の録音はとても少なく、 CDは1枚しかリリースされていません。
セビージャのフラメンコ芸術学院で、とりあえず勉強用にCDを1枚買うなら?と聞いたら、
絶対このトマ・パボンだと言われ、あわててCDショップに走ったことを今も懐かしく思い出します。
パストーラと同じように、トマの師匠もアントニオ・チャコン。
パストーラよりも、
より忠実にアントニオ・チャコンのカンテを再現しているのが、
このトマ・パボンだと言われているんですよ。
実は、アントニオ・チャコン、
録音ではかなり複雑なメリスマ(こぶしのようなもの)がついていますが、
弟子たちに教えていたのは、もう少しシンプルなバージョンだったよう。
そのシンプルバージョンを忠実に歌ったのが、
このトマ・パボン版のカンテだと言われているんです。
ちなみに、私の師匠のナランヒート・デ・トリアーナも、
CDではかなり複雑なメリスマを付けていますが、
弟子たちに教えていたのは、ずっとシンプルなカンテだったんです。
ずっとシンプルな、、、、いえ、これ以上ないほどのシンプルな。
当時、スペインのフラメンコ関係者に、ナランヒートにカンテを習っていると言うと、
”あんなに難しい歌いかたの人にどうして習っているの?”と驚かれたものなんですが、
アントニオ・チャコンもナランヒートも教えるときは、一緒だったんですね。
という訳で、ナランヒートが限界までシンプルにしたカンテを、
当教室ではそのままお教えしています。
(私も人前で歌うときは、複雑怪奇なメリスマが付きまくりますが。)
カンテを学ぶなら絶対に必要なチャコンのカンテに取り組む時に、
大きな助けになるのが、このトマ・パボンの録音です。
カンテ初心者向けのCDとは言いずらいですけれど、
カンテを学ぶ人なら、必ず持っていたい1枚ですね。
2014年6月16日筆 Naranjita